【書評】運は遺伝する:行動遺伝学が教える「成功法則」要約と感想

今回は、作家の立花明さんと行動遺伝学者の安藤寿康さんの対談本『運は遺伝する』について解説したいと思います。この本は、遺伝が私たちの人生に与える影響の大きさを教えてくれる内容になっています。

遺伝は人生の全てに影響を及ぼす

私たちは、子供の頃から「努力すれば何にでもなれる」「頑張ればなんとかなる」と言われて育ってきました。しかし、年齢を重ねるにつれて、そうではないことに気づき始めます。

例えば、ものすごく勉強しているのに、全然勉強していない人にテストの点数で負けたり、自分よりも練習をしていない人の方がサッカーや歌がうまかったりするケースがあります。また、全く同じことをやっているのに、圧倒的にできる人とできない人がいることに気づくのです。

このような原因は、もしかしたら遺伝にあるのかもしれません。実際、最新の行動遺伝学では、身長や顔立ち、運動神経、音楽のセンス、知能だけでなく、頑張れるかどうか、事故や犯罪のリスク、肥満になりやすさ、友人付き合い、病気、モテ運までも遺伝すると分かってきているのです。

つまり、人生のあらゆるところに遺伝の長い影が伸びていると言えます。

遺伝は30〜60%の影響力

この本によると、自分の性格や知能などあらゆることの30〜60%が遺伝の影響を受けているそうです。例えば、認知能力の55%が遺伝、学歴の50%が遺伝、やる気の57%が遺伝、アルコール依存の44%が遺伝の影響を受けているとのことです。

つまり、離婚や運までもが遺伝するということが分かってきているのです。例えば、事故などは、遺伝的に慎重さがなくてスピードを出しがちだったり、信号無視をしがちだったりすることが原因で起こる可能性があります。また、離婚の26%は遺伝で説明できると言われています。

このように、遺伝は全てに影響を及ぼすものの、その割合は30〜60%程度です。アルコール依存の場合、44%が遺伝の影響を受けますが、残りの56%の環境が良ければ、アルコール依存にならないこともあります。つまり、遺伝だけで全てが決まっているわけではありません。

環境の影響力

一方、環境には「共有環境」と「非共有環境」の2つがあります。共有環境とは、親や兄弟と一緒に過ごす環境のことで、例えば親からの躾や本の読み聞かせ、教育や子育てなどが当てはまります。

一方、非共有環境とは、家族以外の友達や異性、自分1人で過ごす環境のことで、どんな友達と付き合うのか、1人で本を読んだり山を登ったり、異性と付き合ったりすることが該当します。

興味深いのは、親と一緒に過ごす共有環境は0〜20%しか自分に影響を与えていないのに対し、友達や異性、自分1人で過ごす非共有環境は20〜60%の大きな影響を自分に与えているということです。

つまり、親と一緒に過ごす時間よりも、友達や異性、自分1人で過ごす時間の方が、自分に与える影響が大きいのです。例えば、やる気は遺伝が約57%、非共有環境が43%、共有環境が0%の影響を与えているそうです。

時間の経過と遺伝の影響

さらに、時間が経つにつれて遺伝の影響は大きくなっていきます。生まれたばかりの時は遺伝の影響をあまり受けていない「フラットな状態」ですが、20歳になるにつれて徐々に遺伝の影響が強くなっていくのです。

例えば、遺伝的に毛深かったり薄毛になりやすかったりしても、子供の頃からそうなるわけではありません。しかし、中高生くらいになると遺伝の影響が出始め、遺伝的に勉強や音楽、スポーツの素質があるかないかの方が、ただ努力することよりも影響が大きくなってきます。そして最終的には、素質がない人がいくら努力しても素質がある人に勝てなくなってしまうのです。

どう生きるべきか

そんな遺伝が思っているよりも大きな影響を及ぼすこの世界で、どう生きていけばいいのでしょうか。

この本の結論は、「生まれつき持っているものを知り、それに逆らわないこと」が大切だと言っています。つまり、いろいろな経験をして、自分が興味や関心が持てるものや、自分に向いているものと向いていないものを知ることが重要なのです。

例えば、勉強が苦手で嫌いなら、いやいや努力するのではなく、他の自分が興味を持てることに手を出してみるということです。自分が何に興味を持つのかも遺伝の影響を受けているからです。

もし、自分が何に向いているのかわからない場合は、環境を変えてみることが大切になります。例えば、山に登ってみるなど、自分の視野の外にあることに手を出し、非共有環境を変えてみることで、自分が興味が持てるものに出会う可能性が上がります。そうすれば、自分の向いていることや向いていないことが分かり、自己理解が進むのです。

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