今回は、パナソニックの創業者である松下幸之助さんの著書『道をひらく』を紹介します。この本は、仕事や人生で壁にぶつかった時の教訓を教えてくれる素晴らしい一冊です。
素直な心で物事を見る
松下さんは、この本の中で「素直」という言葉を最も多く使っています。それほど素直でありたいと願っていたのです。
素直とは、「ありのままの物事を見る」「受け取ること」を意味します。しかし、私たちは物事を見る際に、いつもバイアスがかかっていて素直になれないことが多いのが現状です。
プライドが高かったり、間違いを認めたくなかったり、都合の悪い意見を聞かないことが多々あります。素直であれば、人からアドバイスを素直に受け入れられるので、自分の視点だけでなく、他者の多様な視点から物事を捉えられます。そうすれば、問題の改善策を見つけたり、うまくいかない原因を掴みやすくなります。
全ては志しを立てることから始まる
松下さんは、何かを成し遂げようとすれば必ず壁に直面すると言っています。そのため、壁で心が折れないためには、まず最初に「志し(意志)」を立てることが大事だと説いています。
実際、松下さんは「命をかけられるほどの志しを立てられれば、物事は半分達成したようなものだ」と言っています。志しが弱いと、ちょっとのことでやめようという気持ちになってしまうのです。
一方で、強い志しを持っていれば、逆境があってもそれに負けずに物事を成し遂げられます。志しを持つことができないなら、色々なことに触れ、知っていくことが大切です。松下さんも電気に出会って電気屋に転職し、電気について学んでいったように、私たちも新しいことに触れて興味関心を広げていく必要があります。
60%の見通しがつけば勇気を持って実行する
松下さんは、ビジネスや株、人生の物事は、実際にやってみないとどうなるかわからないと言っています。そのため、60%の見通しと確信があれば、その判断を妥当と考えて実行することが大重要だと説いています。
準備しすぎると出遅れてチャンスを逃してしまう危険もあるので、60%の確信が持てれば、思い切ってリスクを取って行動するべきなのです。資本主義社会では、適度なリスクを取った人が大きなリターンを得ることができるよう設計されているからです。
失敗することを恐れるよりも真剣でないことを恐れる
上記のように60%の確信があれば行動してみるべきですが、残りの40%は「熱意」や「真剣さ」、「行動力」で決まってしまうそうです。そのため、松下さんは頭がよいかどうかよりも、まずは仕事に没頭できることが大事だと考えていました。
自分のやっていることを「正しい」「素晴らしい」と思えば、真剣になれます。逆に、自分のやっていることを心の中で「くだらない」「アホらしい」と思っていれば、熱意は持てません。
だからこそ、「誰に言われるまでもなく真剣になれる仕事」を探すことが重要なのです。そうすれば、失敗を恐れるよりも「真剣でないこと」を恐れた方が大切だと気づけるはずです。
飛躍はいつも「なぜ?」と問うことから始まる
物事をうまくいかせるには、うまくいかなかった時に、その原因を正確に導き出すことが大切です。そのために、子供のように「なぜ?」と質問し、納得いくまで原因を掘り下げる必要があります。
子供は素直だから分からないことがあればすぐ質問しますが、大人になるとプライドや人の目を気にして「なぜ?」と聞けなくなります。しかし、松下さんは大人も同じように常に「なぜ?」と問わなければならないと言っています。
例えば、自分がうつ病になった原因を、「なぜ?」と問いながら本質を導き出し、それを改善してから再チャレンジする。このように、「なぜ?」と何度も問うことで、物事の本質に迫り、飛躍につながるのです。
頭ではなく体験して身を持って知る
知識は「実体験を通して初めて知恵となる」と松下さんは説いています。例えば、水泳の名人から理論を教わっただけでは上手く泳げません。実際に水に入り、溺れかけたりしながら感覚を身に付けなければ本当の学びにはなりません。
そのため、今日学んだことを1つでも行動に移し、身を持って知り、工夫することが大切なのです。松下さんは「昨日と同じ日を繰り返すな。どんな小さなことでもいいから工夫する」と言っています。1ミリでも前進すれば、昨日と違う「今日」を作れるのです。
1つの道に固執しない
人は、ピンチになると視野が狭くなり、「会社をクビになったら終わりだ」「プロジェクトが失敗したら人生は終わり」と考えがちです。しかし、松下さんは「西の道が険しければ東から登れ」と言うように、視野を広げて別の選択肢を探すことが重要だと説いています。
物事に行き詰まったら、絶望する前に柔軟に「こうなったらこうしよう」「他の方法はないか」と考え直すことが大切なのです。最近ではAIの発達により、選択肢は格段に増えています。ただし、最初に立てた志しを変える必要はありません。そこに至る道は一つとは限らないのです。
目の前の小さな得ではなく将来の大きな得を取り続ける
続けて、「目の前の小さな得」か「将来の大きな得」かの選択について説明します。
人間は、少し先の未来の利益を適切に評価できず、目の前の小さな利益を過大評価してしまいがちです。例えば、「今すぐ1万円をもらう」か「1年後に1万5千円をもらえる」という選択肢があれば、多くの人は今すぐ1万円を選んでしまうでしょう。
しかし、このように目の前の小さな得を取り続けてきた人と、将来の大きな得を取り続けてきた人とでは、人生に大きな差が生まれてしまいます。松下さんは、小さな利益にとらわれていれば結局は損をすると警告しています。
特に、経営者が目の前の欲にかけて脱税や下請けに厳しくするなどすれば、組織全体がダメになりかねません。一人の損がみんなの損になる可能性があるのです。
一方で、人間には知性があり、動物とは違って目の前の小さな欲に流されずに、長い目線で大きな利益を選択できる能力があります。この知性を活かして、目の前の小さな得ではなく将来の大きな得を取り続ける人の方が、物事をうまく運びやすいはずです。
ただし、口で言うのは簡単ですが、実際にそうするのは極めて難しいことです。時折りこの教えを思い出す必要があります。
自分の本領を生かす
私たち一人ひとりには、生まれつき異なった長所と短所があります。だからこそ、自分の長所をうまく生かさなければ、大きな成果を出すことはできません。
運動能力が高い人はスポーツ選手に、顔がいい人はモデルや営業マンに、手先が器用な人は職人やクリエイターになるべきです。そうすれば自分の長所を活かせ、さらに他人とは違う特技を発揮できます。
自分の本領を生かせる環境で活躍すれば、他人に対する劣等感も減り、謙虚になれるはずです。ただし、自分の本領が分からない場合は、探し続ける必要があります。
松下さんは、みんながお互いの長所と短所を補い合うことで、大きな調和が生まれると説いています。各自が自分の本領を生かせば、みんなにとっての大きな幸福につながるはずです。
まとめ
松下幸之助さんの教えをまとめると、以下のようになります。
- 素直な心で物事を見る
- 全ては志し(意志)を立てることから始まる
- 60%の見通しがつけば勇気を持って実行する
- 失敗することを恐れるよりも真剣でないことを恐れる
- 飛躍はいつも「なぜ?」と問うことから始まる
- 頭ではなく体験して身を持って知る
- 1つの道に固執しない
- 目の前の小さな得ではなく将来の大きな得を取り続ける
- 自分の長所と短所を知り、本領を生かす
松下さんは、病弱で学歴もなく貧しい環境から這い上がり、大きな成功を収めました。それができたのは、まず最初に大きな志しを立て、素直に他者の意見に耳を傾け、有能な人々に助けてもらったからだそうです。
最後になりましたが、この本の内容は決して新しいものではありませんでした。むしろ、誰もが知っているけれども、なかなかやれないことばかりでした。
しかし、素直であり続けること、目の前の欲に流されず長い目で物事を見ることは、誰もが心掛けるべき大切なことです。そのため、この本は私たち自身を見つめ直すのに役立つ一冊だと感じました。時折り読み返して自分自身を正すことをおすすめします。